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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)70079号 判決 1975年2月26日

原告 細田昌一

右訴訟代理人弁護士 伊礼勇吉

右訴訟復代理人弁護士 後藤玲子

被告 株式会社 三豊

右代表者代表取締役 村田いね子

右訴訟代理人弁護士 佐藤貫一

同 大塚利彦

主文

原告と被告との間の東京地方裁判所昭和四七年(手ワ)第二五九〇号約束手形金請求事件の手形判決を取消す。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告「被告は原告に対し、金七九万三、〇〇〇円及びこれに対する昭和四七年一一月二六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告「主文第二項と同旨」の判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、別紙手形目録記載の約束手形一通(以下「本件手形」という)を振出した。

2  原告は、本件手形を所持している。

3  本件手形は、支払期日に支払場所に呈示された。

4  よって、原告は被告に対し、本件手形金七九万三、〇〇〇円及びこれに対する支払期日である昭和四七年一一月二六日から支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息を支払うよう求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

請求原因事実をすべて認める。

三  抗弁

1  本件手形の受取人兼第一裏書人であるジャパン・レンタカーシステム株式会社(以下「訴外会社」という)は、本件手形の割引を依頼して、被裏書人欄を白地のまま本件手形を原告に交付したところ、原告は、さらにこれを単なる引渡しの方法によって第二裏書人の折田汎司に交付した。しかし、同人が本件手形を支払期日に支払場所に呈示したところ、その支払を拒絶されたので、原告は同人からこれを買戻して再び所持人となった。

2  ところで、右のとおり原告はもともと訴外会社から割引を依頼されて本件手形の交付を受けながら割引金を交付しないばかりか、原告の訴外会社に対する債権の担保のため本件手形を受領すると称して、訴外会社の本件手形の返還請求に応じない。

したがって、原告は、本件手形を割引依頼によって単に預かっている者にすぎないから本件手形の権利者となりえない。

3  仮に、原告が本件手形の権利者であるとしても、原告は本件手形を割引金を交付することなく無償で取得しているのであるから、このような場合、原告が本件手形の権利を行使するのは権利の濫用として許されない。

4  仮に、原告が本件手形を訴外会社に対する債権の担保のため受領したものであるとしても、右債権は昭和四七年八月一五日代物弁済を受けることによってすでに消滅している。したがって、原告が本件手形を取得するに至った原因関係は消滅してしまっているのであるから、原告は本件手形の支払を求める何らの経済的利益も有せず、偶々本件手形を所持しているからといってその手形上の権利を行使するのは権利の濫用として許されない。

四  抗弁に対する原告の答弁

1  抗弁1の事実中、原告の本件手形の訴外会社からの取得原因について否認するほかは、その余の事実を認める。原告が本件手形を取得したのは、原告の訴外会社に対して有する債権担保のためである。

2  抗弁2の事実中、原告が割引金を交付しないこと、本件手形を返還しないことはいずれも認めるが、それは本件手形を取得したのが原告主張のとおりである以上当然のことである。その余の事実を争う。

3  抗弁3の主張を争う。

4  抗弁4の事実を否認する。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  原告が本件手形を訴外会社から取得した原因を除きその余の事実について当事者間に争いのない抗弁1の事実に、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

本件手形の受取人兼第一裏書人である訴外会社は中京自動車株式会社(以下「中京自動車」という)のいわゆる子会社で、いずれの会社の代表者も二村寛が兼任しており、山形英一はその秘書という立場にあった。そして、原告は、昭和四七年八月二日当時、中京自動車に対し金五〇〇万円の貸金債権を有し、訴外会社はこれの連帯保証人であった。ところで、山形は訴外会社の代理人として、同年七月下旬、割引を依頼して訴外会社の裏書のある本件手形を原告に交付したところ、原告は、本件手形をその信用調査をしてから割引に応ずるか否か返答するからそれまでしばらく預かるとのことであった。そして、山形が同年八月二日原告の事前の連絡に応じて原告方に本件手形の割引金を受取りに行ったところ、そこに二村から山形に電話で「本件手形の割引金を加えてもなお当中京自動車が決済すべき手形金に足りない」といってきた。その場でこの電話の内容を知った原告は、これではとうてい本件手形の割引には応じられないとして、かわって本件手形を前記の原告の中京自動車に対する債権の担保として預かる旨を山形に話した。このため、山形は本件手形の割引金を受領することなく、本件手形の返還をも受けずに立ち去らざるを得なかった。

ところで、原告は本件手形を原告の訴外会社に対する債権担保のため取得したかのように主張する。しかし、右認定事実のとおり、原告は当初割引依頼によって本件手形を取得していたが、同年八月二日、これを原告の中京自動車に対して有する債権(実は訴外会社に対して有する連帯保証債権であってもさしつかえはないが)担保のため預かる意思に変更したことは明白であるとしても、そのとき訴外会社の代理人である山形が原告の意向に応じて本件手形の割引依頼を撤回しこれを債権担保のために原告に預けることに同意したとの原告本人尋問の結果の一部は、≪証拠省略≫に対比するときすぐには採用できないというほかはなく、その後に訴外会社が本件手形を原告に対しその主張のような債権担保のために預けることに同意したことを認めることのできる証拠もない。してみると、原告が最終的には本件手形を債権担保のために預る意思であったにしても、これがために原告が本件手形を所持する原因がただちに変更されるものでもなく、また訴外会社が原告の右のような意思に同意したこともないからには、原告は折田汎司に交付するまでは依然として訴外会社から割引を依頼されて本件手形を所持していたのに止まるというべきである。

ところで、手形割引は、手形割引をする者が手形金額からいわゆる割引料を控除した金額を割引依頼人に交付して当該手形を買取ることによってなされる手形の現実売買であると解すべきであるから、特段の定めのないかぎり、手形割引人は割引金を割引依頼人に支払わないかぎり当該手形上の権利を取得することができないというべきであり、したがって、本件における原告は、本件手形を折田に交付するまでは、割引金を支払うことなく本件手形を所持していた者であるから、未だ本件手形上の権利を取得していなかったものというほかはない(大阪高等裁判所昭和三七年一月三一日判決・下裁民集一三巻一号一二九頁。なお最高裁判所第一小法廷昭和四九年七月四日判決・金融法務事情七二六号三〇頁参照)。

しかし、本件においてはなお検討を要する。原告の本件手形の訴外会社からの取得原因を除いて争いのない抗弁1の事実と≪証拠省略≫とをあわせ考えると、原告は、本件手形を訴外会社から取得した後、さらにこれを昭和四七年一〇月ごろ折田汎司から割引を受けて第一被裏書人欄が白地であることを利用して本件手形を単なる引渡しの方法によって同人に譲渡したが、後に同人から裏書によってこれを買戻して所持人となり現在に至っていることが認められる。この認定事実に前記説示のとおり原告は折田に本件手形を交付するときには無権利者であったことを考えると、もしも同人が本件手形を善意取得していたとするならば、同人から買戻した原告はいまや本件手形につき完全な権利を取得しているかのように思えないではない。しかし、ことがらの実際をみると、原告が折田から本件手形の裏書譲渡を受けたのは戻裏書の場合に酷似するのであるから、本件のような場合原告は折田から本件手形の裏書譲渡を受けて再び本件手形を所持することとなったことによって、本件手形につきこれを同人に交付する以前の地位に回復したとみるのが相当である。

以上の次第で、原告は被告から未だ本件手形上の権利を取得していない無権利者であるとの対抗を受けるものとみるべきであるから、被告はこのような原告からの本件手形金請求には応じる必要がない。

三  よって、抗弁2の主張は理由があるからその他の抗弁について検討するまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。したがって、これと結論において異なる本件手形判決は全部取消されるべきである。

そこで、民事訴訟法第四五七条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤敏夫)

<以下省略>

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